私は天使なんかじゃない








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  サイコロを振るう、出た目は3。
  1、2、3……止まった場所は……。





  「ターコリエン下がって、ポールソン前進っ! 全員援護してっ!」
  通路での戦闘。
  激闘。
  私たちは全員がコンバットアーマーを装備している。そしてアサルトライフル。それが標準装備。
  ああ、ポールソンは違うけど。
  彼はショットガンを好んで使っているらしく、アサルトライフルではない。
  その他のサブウェポンはそれぞれ自由。
  突撃メンバーは私、ポールソン、ターコリエン、ソマー、エンジェル、そしてMr.クラブ、そして案内役としてサリー。彼女は武器を持っていない、というか銃の反動に耐えられない。ちびっこだし。
  他はエンジンコアに残り。
  「保安官っ!」
  「ええ、分かってる、行くわよ皆ーっ!」
  『おうっ!』
  戦いは勢いだ。
  私たちは通路を爆走していく。
  邪魔する奴は退き殺すぞコラーっ!
  エイリアンたちは私たちに成す術もなく倒されていく。完全武装した部隊であれば、エイリアンとはいえ大したことがないのは既に分かっている。
  先のエンジンコア襲撃の際に敵さんは転送装置のスイッチを入れた、サリーがその権限を奪った、どうやってかがよく分からないけど宇宙船の端末から奪ったのだろう。
  そう考えるとサリーはエイリアンの言語が分かっているのか?
  だとしたら凄い。
  襲撃は当然退けた、当然だけどね。
  ともかく。
  ともかく転送装置はこちらが奪ったので宇宙服を着て……云々をショートカットすることが出来た。
  ご都合主義万歳っ!
  そして戦いの舞台は宇宙船上層に移った。
  私は分析した。
  推測、とも言うけど。
  敵の戦力は実は大したことない、そう結論付けた。
  結論の理由?
  簡単だ。
  エンジンコア奪回の戦力が大したことなかった、ここは向こうの母船であり本拠地だ、甘く見ていての失敗にしてもすぐさま増援送って来るだろ。それがなかった。すぐさま次の手駒が
  揃わなかったとは考えられない、物量で圧せない理由が向こうにはあるのだ。それが何かは知らないけど、少なくともこちらは今のところ有利。
  何故?
  それは物量で圧せなかった理由が、今のところあるから。
  それが何かは知らないし知りようもないけど可能な内に制圧できる所は制圧しておきたい。
  陣地取りは迅速さが必要。
  そして大胆さ。
  もちろん慎重さも必要だし、バックアップはある。
  後方支援要員としてヤブ医者とターコリエンの部下2人はエンジンコアにいる。必要となれば弾薬等の支援で無線で連絡を取り合い、万が一私たちが全滅してもエイリアンへの報復としての
  基盤は残る。まあ、その時は他の人たちを解凍してもらうとしよう。今のところ、私としては、烏合の衆になるだけなのでそれはしなかったけど。妙に派閥争いになるからだ。
  さて。

  「ニャーっ!」

  猫かお前は。
  エイリアンが蹴散らされていく。
  連中の兵器、確かに最初は驚いたけど、地球のレーザー系やプラズマ系とはまた別系統の未知の兵器なんだろうけど、そこまで圧倒的ではない。
  「止まって。弾丸の装填をしましょう」
  長い長い通路。
  転がるのは敵さんの死屍累々。
  こちらの損害?
  特にない。
  私が敵の攻撃を受けたけど……コンバットアーマーの装甲が少し剥げた程度だ。
  大してことない。
  ……。
  ……生身で受けたら死ぬのか?
  その可能性は捨てきれないなー。
  気を付けねば。
  弾倉交換完了。
  この近辺の敵は全滅したのか、それともどこかに集結しているのか?
  通路沿いにある小部屋をソマーが開けて銃を乱射。
  悲鳴が聞こえたような?
  中にいたらしい。
  エンジェルは流線型の長い銀色の銃を拾って弄っている。それから頭を横に振った。
  「謎の技術だわ」
  使えないらしい。
  そりゃそうだ。
  撃つだけならたぶん何とかなるのかもだけどエネルギー源が分からない。やはり弾倉とか交換するのだろうか?
  使いこなせば有利なのかもだけど私たちにしてみたら当てにならない敵性兵器だ。
  使い方?
  敵に聞くのはあり得ない。
  まあ、人類とともに歴史を歩んだ硝煙と油臭い、鉄の銃をパートナーとして進むとしましょう。
  「ポールソン、楽勝だな」
  「ああ」
  「だ、だが、楽勝過ぎないかな? エイリアンは狡猾で姦計に長けている、きっと何かとんでもないことを企んでいるに違いないっ!」
  「そりゃすごい。例えば、どんなだ?」
  「そ、それはだな、Mr.クラブ……」
  相変わらず心配性のターコリエン君だ。
  復讐にしか興味がないのかポールソンはこれ以上雑談に加わらずタバコを火を付けないまま加えた。そしてそのまま進むべき道の先を見る。
  今のところ順調だ。
  今のところは。
  「サリー」
  「何?」
  「ここから先には何が?」
  「分からない。ここから先は行ったことないから。いつも捕まっちゃうんだ」
  「そっか」
  今まではサリー情報で作戦が立てれた、立て易かった。
  だがここから先は未知の領域。
  どうしたもんか。
  「なんだいミスティ、弱腰?」
  「そうでもないけど。ソマーはどう思う?」
  「陣地取りならもう少し取っとくべきだと思うよ、通路取ったところで勝った気がしない。広い部屋奪ってさ、玉座とか並べて座りたいものさ。貨物倉庫に玉座ってあったっけ?」
  「あはは」
  もう少しお気楽に行くとしよう。
  ……。
  ……ま、まあ、この人数で嫁げ突撃した時点でポジティブレベルは最強なんだろうけどさ。
  だけど勉強になるなぁ。
  私は宇宙船に留まる気はない、ターコリエン辺りは残るだろうけど。もっと残りたい人はいるだろうな、これから解凍する人も含めて。
  地上に戻った時の勉強だな、これは。
  フィーさんに戦いの極意とか教わったしソマーたちからも学べることが多い。
  勉強です。
  日々勉強。
  さて。
  「そろそろ行く?」
  「賛成だ保安官。俺の家族の復讐をチビ野郎どもにしてやらなきゃだぜ」
  私たちは通路を進む。
  不意打ちはない。
  戦力は終了?
  それはない。
  出し惜しみもしないだろう、たぶんどこかに集結してるんだ。
  扉にぶち当たる。
  ここを通るしかない。
  
  ぷしゅー。

  扉が開く。
  わりと広い。
  「サリー、ここは何?」
  「来たことないから分からない」
  「そう」
  「だ、だけどミスティ、何か、その、実験室っぽくないか?」
  「そうね」
  ターコリエンが言うことは正しい。
  どう考えても実験室だ。
  並ぶベッドと拘束具。冷凍ラボで見た人間を冷凍保管する筒、中身はないけどつまりはそういうことだろう。
  「あいつらきっとここで人間をエイリアンにしているんだっ!」
  「かもね」
  ここに至るとターコリエンが今まで言ってたとんでも理論は実は正しいのかもしれない。

  ヒタ。

  「ん?」
  何の音だ。
  足音?

  ヒタヒタヒタ。

  何かが近付いてくる。
  私たちはその音の方に銃を構えた。
  「な、何だ、こいつ?」
  Mr.クラブの言葉に対する答えを誰も持っていない。
  まるでそれは蛙のような奴だった。
  二足歩行。
  異様にお腹が出ていて、指をどういう意味があるのかは知らないけどこちらに向けている。今までのエイリアンはと明らかに異質だ。
  「ターコリエン、どう思う?」
  「き、きっと人体実験の産物に違いないっ!」
  そうなるだろうね。
  どう考えてもそういう答えになるだろう。状況証拠が真相はそうだと導いてしまう。
  だけど疑問が残る。
  エンジンコアに出てきたあいつは何だったんだろう?
  あの異形の大男は。
  タイプが違う。
  別の実験の産物か?
  それとも……。
  「観察はお終いだよ、死になっ!」
  ソマーがアサルトライフルを撃つ。
  その奇妙な生命体は奇声をあげ、指をこちらに向けながら走り込んで来たものの弾幕の前に倒れた。エイリアンよりは強いのかもしれないな、何発かは耐えてた。
  「ア、アリガトウ」
  「えっ?」
  ありがとう?
  確かに言った。
  確かにだ。
  となるとこれは人間のか?
  エイリアンが人間を大量に誘拐している最大の目的はこれなのか?
  人間を何だか分からない化け物にすること?
  「ひでぇぜ」
  「ああ」
  ギャングとカウボーイは囁き合う。
  上等だ。
  終わらせてやる、全部だっ!
  「ミスティ、まだ来るよっ!」
  「サリーは下がってて」
  緑色の蛙型生命体と変質させられた人間たちがこちらに向かって歩いてくる。その中にエイリアンを抱えている奴がいる。そいつはエイリアンを高く掲げ、それから床にたたき落とした。
  悲鳴を上げたエイリアンを踏み潰す。
  ふぅん。
  制御は出来ていないってわけだ。
  そしておそらく彼ら自身も自分が制御出来ていないと見るべきか。何らかの事故か、もしくは私ら向けの刺客として解き放ったものの暴走しているって感じか?
  彼らとエイリアンが敵対しているのは、別にいい。
  願ったり叶ったりだ。
  だけどこちらも敵対視しているのはいただけない。ありがとう、とか言ってたから意識はあるんだろうけど……たぶん破壊の衝動とかを植え付けられて、その本能のままに暴れているのだろう。
  倒すしかない。
  救う為にも。
  「こ、ここは話し合いをだな、そ、そうだろ、ミスティ」
  「どうするよ、保安官」
  「撃て撃て撃てっ!」
  そう。
  戦うしかないのだ。
  救えるのかもしれないけど今の状況ではそれが分からないし、話し合いも情報収集の時間もないのだ。現にこちらに対して奇声をあげ、指をこちらに向けて走ってくる。
  敵として認識されているし、こちらもそうするしかない。
  世界はメルヘンではない。
  誰でも彼でも救えるわけではない。
  「サリーは私の後ろにっ!」
  「う、うん」
  「悪いな、兄弟っ!」
  「ポールソン、突出し過ぎっ!」
  大量の弾丸を私たちは叩き込む。
  幸い数こそ多いものの攻撃方法が接近戦しかないらしく私たちに到達する前に倒れ伏す。肉体的にエイリアンよりも強靭ではあるものの、銃は銃だ、何発も耐えられない。
  その時……。

  ドサ。

  緑色の蛙型生命体はその場に崩れ落ちた。
  首と胴が別れた状態で。
  「加勢に来たでござるっ!」
  侍っ!
  というか喋ってるぞ、英語をっ!
  さらにばっさぱっさと斬っていく。
  日本刀すげーっ!
  「拙者、カゴ……いや、異人の風習では逆に名乗るでござったな、拙者はトシロー・カゴでござるっ! 師匠とともに加勢に来たござるっ!」
  「師匠?」
  誰のことだ?
  「煉獄っ!」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  響き渡る声。
  壁が崩れ、その先ではエイリアン軍が全滅のご様子。その壁越しに、さらにダメ押しの一撃を放つ。その一撃はこちらに向かってきていた敵を背後からなぎ倒す。
  せ、戦闘終了。
  私たちは唖然としている。
  フィーさんだけいれば勝てるんじゃね?
  ありえます。
  「はふ。雑魚過ぎ。つまらない」
  「フィーさんっ!」
  「ハイ。元気してる、ミスティ」
  最強の援軍だ。
  これでこの場にいた敵は全滅したってわけだ。だけどここは敵の本拠地、すぐさま移動しなきゃ増援が来るだろう。だけどその前に情報の整理だけでもしたい。
  「俺が警戒しよう、手短にな」
  「お願い、Mr.クラブ」
  今のところは私たちのペースだ。
  今のところは。
  「トシロー、あなたも警戒して」
  「御意っ!」
  師匠ってフィーさんか。
  いない間に何があったんだ?
  「急に流暢に話し出したね、あいつ」
  「そ、そうね」
  ソマーとエンジェルは相槌を打ち合う。
  それは私も同感だ。
  幾らなんでも語学力堪能過ぎだろ。ところどころアクセントおかしいとはいえ言葉が通じている、お互いにだ。
  「頭の中でも弄ったんだろ? ははは」
  冗談めかしてポールソンは笑う。
  「正解」
  『はっ?』
  やだなにそれ怖い。
  事もなげにフィーさんは頷いた。ターコリエンが銃を構えているような。ああ、そういえば人間に化けたエイリアンがいるかも云々最初に言ってたな、フィーさんを疑っているらしい。
  ……。
  ……いやー、でも否定できないぞ?
  に、人間ですよね?
  「ど、どうやったんですか?」
  聞いてみる。
  「魔力で頭の中を弄った」
  「はっ?」
  「あんたたちの語学に変換したのよ、彼の語学力を。私的に言えば、何というか、ヴァレンウッドの訛りがあるからあんたたちの言葉は私には聞き辛いんだけどさ。分からないほどじゃあない」
  「えーっと」
  分かる?
  はっはっはっ。
  分かるかボケーっ!
  「……エイリアンと敵対している、別の星系の存在ってことで納得しましょう」
  力なく私がそう言うと全員が頷いた。
  理解しようって発想?
  ないっす。
  さすがに無理っす。
  「すごーい。お姉ちゃんって別の星の人なのっ! まさに神秘だわっ!」
  「どうも」
  サリーは盛り上がってるし。
  何かフィーさんは満更でもないし、というか満更でもない理由分からないし。
  ま、まあいいか?
  おおぅ。
  「そ、そろそろ……」

  フッ。

  『ニャーっ!』
  突然私たちの背後にエイリアンたちの群れが現れる。
  どこからっ!
  話をしていたとはいえ油断はしてなかった、突然だ、本当に何もないところに突然現れた。数は13。圧倒的ではないけど奇襲だ。
  「な、何だこいつら、いきなり現れたぞっ!」
  「ジャンプして来たっ!」
  ポールソンの叫びにサリーが叫び返す。
  なるほど。
  テレポートして来たのか。
  そういう能力があるのかとも思ったけど、他のエイリアンと違い宇宙人服のベルトのバックルがやたらでかい。大きめのお皿ほどあり、何かのボタンがいくつもある。あれがジャンプ装置か?
  かもしれない。
  「私がやるわ。お先にどうぞ。御機嫌よう」
  フィーさんが名乗り出る。
  「行きましょう」
  即座に言ったのはソマー。
  そうね。
  彼女の真価を知っているのは私ねソマー、エンジェルだけだ。
  何しろ強い。
  デタラメに強過ぎる。
  他にもジャンプしてくる奴はいるだろうし何も考えなしにジャンプしてきているわけではあるまい。強襲してきたこいつらはこちらを殺そうとしているのは確かだけど、それ以上に足止めでもあるはずだ。
  フィーさんの行動はそこらへんで見られる。
  暴れまくり。
  それも想定した上で部隊を送り込んでくるはずだ。
  ここで足止めを食うのはやばい。それをフィーさんも考えてるのだろう、彼女は言った。
  「トシロー、後は任せるわ」
  「御意っ!」
  侍くんは丁重に頭を下げてそのまま仲間たちをエスコートしつつ先に向かう。
  私はの側に留まる。
  「あなたも先に行っていいけど?」
  「手伝います」
  「さあて。少し遊んであげましょうか。お前ら殺すよ」
  おお。
  頼もしくはあるけど怖いですね。
  ゆっくりと右手をこの場にテレポートジャンプしてきた奇襲部隊に向ける。彼女の手に宿るのは雷。宇宙船の中で暴れ回ってたから既にエイリアンたちは知っているのだろう、フィーさんの力を。
  後退し始める。
  「裁きの天雷っ!」
  『ニャーっ!』

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  瞬時に弾けるようにバタバタと倒れる。
  死屍累々。
  強いなぁ。
  強い女を私も目指しているけどフィーさんみたいになりたいなぁ。ま、まあ、この能力は、無理だろうけど。

  ばぁん。

  「はっ? ……何これ……」
  何の受け身もなくフィーさんが後ろに倒れた。
  えっ?
  首筋からは血。
  止まることなく溢れている。
  「フィーさんっ!」
  「参ったな。何の攻撃かは知らないけど魔法じゃないのか。魔法耐性は意味ないのか。……魔力障壁を面倒でも張っておくべきだったか」
  銃声。
  さっきのは銃声だ。
  よくは分からないけどフィーさんはエイリアン兵器がレーザーなのかは知らないけど、その類は無効だけど銃弾は普通にダメージを負うらしい。いや普通はどちらでも死ぬんだけどさ。
  だけど誰だ?
  どこのどいつが撃ったんだ?
  何とか身を起こして左首に両手を沿えるフィーさん。
  手が光り始める。
  「悪いけど、回復に専念するから、後は、よろしく」
  後?
  バタバタバタとエイリアンたちが迫ってくる音が聞こえた。
  かなりの数だ。
  何とかしなきゃは分かるけど、フィーさんのことも何とかしなきゃ。
  スティムはない。
  あれはターコリエンがまとめて持っている。
  くそ。
  分散することも考えてスティム持っておくべきだったか。いや、でも分散することは想定してなかった、あの人数だから分散したら負けるから分け合ってなかった。
  甘い考えだった。
  いや待て。
  そうだ、ジェルがある。
  ターコリエンとDr.サムソンが作ってくれた回復アイテム。副作用云々言ってたから敬遠してたし、幸いにもダメージを負わずにここまで来たから使わなかったけど、これを使えばあるいは。
  敵が迫ってくる。
  その時、死体の中から何とか立ち上がったエイリアンを咄嗟に羽交い絞めにする。
  生き返ったところをすいませんね。
  人質です、人質。
  盾とも言う。
  問題はエイリアンどもが撃つのを躊躇うのをしないであろうこと、そしてこんな奴では盾にすらならないということだ。撃ち合えば確実に私が死ぬ、このなひょろエイリアンでは防弾代わりにもならない。
  「ニャーっ! ニャーっ!」
  「うっさいっ!」
  手の中で暴れるエイリアン。
  とはいえ体力的には脆弱なようだ。女の私の腕の中からも逃げられない。それを察してたのか、振りほどこうとするのをやめて自身の腰に巻いてあるベルトを弄りだす。
  何やってんだ、こいつ?
  「フィーさん、この容器に入っているジェル塗れば治りますからっ!」
  首筋を抑えているフィーさん。
  血は止まらない。
  「ニャーっ!」
  そして。
  そして私の意識は飛び……。





  「ん」
  感覚が覚醒した。
  顔がひんやりとする。
  何だこれ、堅いぞ。まさか床に転がっているのか?
  ボルトの床は堅いもんなぁ。
  ベッドから落ちたらしい。
  ……。
  ……ボルト?
  まさか。
  私は脱走したぞ。
  パパを追ってね。
  記憶をさかのぼるけど意識が上手くまとまらない。ここで目を開けて状況を確認すべきだと目を開ける。この程度のことも分からないとは、同も冷静さを欠いているらしい。
  目を開く。
  床とキスしてた。
  何してんだ私は。仰向けになる。
  それにおかしいのは、ここは何処だという事だ。
  ボルトではない。ただ、そんな感じの清潔感を通り越して気の滅入るほどの滅菌された感じの一室だ。寝転んだまま部屋の中を見る。円形の部屋。さほど広くない。
  天井はガラス張り。
  丸見え。
  上は上で部屋があるらしい。上から監視出来るじゃん、プライバシーないじゃん。
  「あれ?」
  この状況、最近あったような?
  物凄い既視感を感じます。
  顔を横に向けてみる。
  そこには戦前の、グレイ型と呼ばれるエイリアンが転がっていた。目を見開いてこちらを見ている。見つめ合い恋に落ちる五秒前。……いや、こいつらそもそも瞼ないのか。
  思い出す。
  そうでした、私は宇宙性に拉致られて、それから……あー……あれからどうなったっ!

  「あらおはよう」

  私を見下ろすように立っている人物……裸の女だ……そいつが銃口が私の頭に向けている。10oピストル、ここが牢獄だとして、あれは私のか?
  赤い長髪の女。
  年の頃は30ぐらいか?
  もしかしたら20代後半かも。誰だろこの人。推察するに別の捕虜なんだろうけど。口元には冷笑。そして目は笑ってない。
  知らない人だ。
  裸ってことは宇宙人に拉致されて、ここに閉じ込められているのだろうけど、私に対しての友好度は低そうだ。
  そりゃそうか。
  誰だってそうする。
  とはいえこのまま状態が良いわけではない。

  一触即発ってやつ?
  下手な返答したら撃たれそうだ。
  フィーさんに習ったことを実践しよう。
  「どうも」
  慌てない慌てない。
  とりあえず状況を見よう。
  「突然そいつと現われた」
  女は宇宙人を顎でしゃくる。
  そうか。
  テレポートでここに飛んだのか、あのあいつと一緒に。ガチャガチャ何かベルトを弄ってたけど、ふぅん、ジャンプ先を間違えたのか。
  「それで? あたしの憩いの場所に彼氏と一緒に押しかけて何か用?」
  「あ、あはは」


  ここは牢獄。
  ふりだしに戻る。